(前NTTデータ フェロー システム科学研究所長)山本 修一郎
本連載では第57回でSysML要求図を紹介した。また連載第58回でアシュアランスケースのためのGSN(Goal Structuring Notation)を紹介した。今回はこの連続する2回の連載で紹介したSysML要求図とGSNを比較しよう。まず、SysML要求図とGSNの構成要素について復習しておこう。
SysML要求図
SysMLには、要求図、振舞い図、構造図という3種類がある。振舞い図には、アクティビティ図、シーケンス図、状態図、ユースケース図がある。構造図には、ブロック定義図、内部ブロック定義図、パラメトリック図、パッケージ図がある。
SysML要求図の構成要素は、表1に示す要求クラスと、要求クラス間の関係ならびに、関係についての理由の説明という3種類に分類できる。要求図をグラフとしてみると、ノードは要求クラスと、関係についての理由、そして他のSySML図式の構成要素クラスを示す矩形の3種類である。これに対して関係には、階層関係、複製関係、派生関係、満足関係、検証関係、洗練関係、追跡関係、理由関係という8種類がある。
表1 SysML要求図の構成要素
GSNの構成要素
GSNの構成要素は、主張(ゴール)、戦略、コンテクスト、証跡(ソリューション)、未展開要素(保留)と、コンテクスト関係、ゴール関係からなる(表2)。GSNをグラフとしてみると、ノードには、主張(ゴール)、戦略、コンテクスト、証跡、未展開要素(保留)という5種類がある。ノード関係は2種類である。
表2 GSNの構成要素
SysML要求図とGSNの構成要素比較
次にゴール分解の観点から、SysML要求図とGSNを比較した結果を表3に示した。比較項目は、ゴール、ゴール分解、前提条件、追跡関係、ソリューション(証跡)、満足関係、構造関係である。
表3 GSNとSysMLの構成要素比較
◆ゴール
SysML要求図では、ゴールも要求クラスで記述する。これに対してGSNでは、主張によって記述する。したがって、ゴールについては、SysML要求図とGSNは同じように記述できる。
◆ゴール分解
SysML要求図では、ゴール分解を要求クラスについての階層関係で記述する。これに対してGSNでは、戦略によって記述する。したがって、ゴールについては、SysML要求図とGSNは同じように記述できる。ただし、GSNでは戦略ノードに分解理由を記述できる。これに対してSysML要求図では、階層分解自体には名前を付けることはできない。しかし、階層分解関係に理由関係を用いて階層分解の理由を説明できる。したがって、SysML要求図の階層関係を、理由関係で補足すればGSNの戦略と同じ内容を記述できる。
◆前提条件
SysML要求図では、要求クラスと他のクラスの関係の前提条件を理由関係で説明することができる。したがって、要求の階層分解関係に対する前提条件を理由関係によって表現できる。しかし、SysML要求図には、要求クラス自体の前提条件を記述するためのGSNのコンテクストに相当する構成要素はない。
GSNでは、主張や戦略の前提条件をコンテクストによって表現できる。
◆追跡関係
SysML要求図では、要求クラスと他のクラスの追跡関係を追跡関係で記述することができる。
GSNでは、コンテクストを用いて、主張の前提条件として他の文書と追跡関係にあることを表現できる。
◆ソリューション
SysML要求図では、設計コンポーネントに対するクラスを要求クラスと満足関係で関係づけることができる。要求に対するソリューションを関係づけられる。ただし、GSNの証跡に相当する構成要素はSysML要求図にはない。
GSNではソリューションを証跡によって表現できる。
続きは本誌でご覧頂けます。→本誌を購入する
ご購入のお申込みは電話(03-3507-0560)でも承っております。
- 60:要求とアーキテクチャ
- 61:要求と保守・運用
- 62:オープンソースソフトウェアと要求
- 63:要求工学のオープンな演習の試み
- 64:Web2.0と要求管理
- 65:ソフト製品開発の要求コミュニケーション
- 66:フィードバック型V字モデル
- 67:日本の要求定義の現状と要求工学への期待
- 68:活動理論と要求
- 69:ビジネスゴールと要求
- 緊急:今、なぜ第三者検証が必要か
- 71:BABOK2.0の知識構成
- 72:比較要求モデル論
- 73:第18回要求工学国際会議
- 74:クラウド時代の要求
- 75:運用要求定義
- 76:非機能要求とアーキテクチャ
- 77:バランス・スコアカードの本質
- 78:ゴール指向で考える競争戦略ストーリー
- 79:要求変化
- 80:物語指向要求記述
- 81:要求テンプレート
- 82:移行要求
- 83:要求抽出コミュニケーション
- 84:要求の構造化
- 85:アーキテクチャ設計のための要求定義
- 86:BABOKとREBOK
- 87:要求文の曖昧さの摘出法
- 88:システムとソフトウェアの保証ケースの動向
- 89:保証ケースのためのリスク分析手法
- 90:サービス保証ケース手法
- 91:保証ケースのレビュ手法
- 92:要求工学手法の再利用
- 93:SysML要求図をGSNと比較する
- 94:保証ケース作成上の落とし穴
- 95:ISO 26262に基づく安全性ケースの適用事例
- 96:大規模複雑なITシステムの要求
- 97:要求の創造
- 98:アーキテクチャと要求
- 99:保証ケース議論分解パターン
- 100:保証ケースの議論分解パターン[応用編]
- 101:要求発展型開発プロセスの事例
- 102:参照モデルに対する保証ケース
- 103:参SEMATの概要
- 104:参SEMATの活用
- 105:SEMATと保証ケース
- 106:Assure 2013の概要
- 107:要求の完全性
- 108:要求に基づくテストの十分性
- 109:システムの安全検証知識体系
- 110:機能要求の分類
- 111:IREB
- 112:IREB要求の抽出・確認・管理
- 113:IREB要求の文書化
- 114:安全要求の分析
- 115:Archimate 2.0のゴール指向要求
- 116:ゴール指向要求モデルの保証手法
- 117:要求テンプレートに基づく要求の作成手法
- 118:ビジネスゴールのテンプレート
- 119:持続可能性要求
- 120:操作性要求
- 121:安全性証跡の追跡性
- 122:要求仕様の保証性
- 123:システミグラムとドメインクラス図
- 124:機能的操作特性
- 125:セキュリティ要求管理
- 126:ソフトウェアプロダクトライン要求
- 127:システミグラムと安全分析
- 128:ITモダナイゼーションとITイノベーションにおける要求合意
- 129:ビジネスモデルに基づく要求
- 130:ビジネスゴール構造化記法
- 131:保証ケース導入上の課題
- 132:要求のまとめ方
- 133:要求整理学
- 134:要求分析手法の適切性
- 135:CROS法の適用例
- 136:保証ケース作成支援ツールの概要