

NTTデータ
技術開発本部
副本部長
山本修一郎
概要
今回は、何を何にどのように変えるのかという「どのように」の部分について解説する。ここでは、まず前提条件ツリーを用いて最終目標を達成するためにどんな障害があるのかを発見し、それを克服するための中間目標を調べる。次いで移行ツリーを用いて作業を具体的に実行していく計画を明らかにする。これでようやく論理思考プロセスの紹介が完結することになる。
ゴールドラットの論理思考プロセスの概要
前回と同様に、論理思考プロセスを復習しておくと次のようになる[1][2]。今回は第三の問いに答えるための手法を説明する。
問1 何を変革するのか?
現状分析ツリーを用いて、現状の問題点とその根本原因との因果関係を論理的に分析する。
問2 何に変革するのか?
まず対立解消図を用いてゴール、ゴール達成の要件、要件の前提の相互関係を分析することにより、前提間の対立を解消するインジェクションを発見する。次に、未来実現ツリーを用いてインジェクションと因果関係に基づいて、想定される好ましい結果とネガティブ・ブランチの可能性を明らかにする。さらに、ネガティブ・ブランチを用いて最悪の事態を予測し、それに対するインジェクションを考案する。ネガティブ・ブランチを未来実現ツリーに追加する。
問3 どのように変革するのか?
前提条件ツリーを用いて最終目標を達成するための障害やそれに対処するための中間目標の関係を明らかにする。また移行ツリーを用いてどのように変革を完成するかを示す行動の時間的な順序関係を具体化する。
前提条件ツリー
前提条件ツリーの構成要素には、実現すべき目標と中間目標、そして目標を実現する上での障害がある。前提条件ツリーで扱う関係は必要関係と克服関係である。
必要関係では、上位の目標を実現するためには下位の目標が必要であることを表す。これに対して克服関係では上位の目標の障害を下位の中間目標によって解決できることを表す。
新たなシステムが成功するための前提条件を予め明らかにするために作成するのが前提条件ツリーなのである。
前提条件ツリーの作成プロセス
前提条件ツリーの作成では、次の3つの問に答える必要がある。
- 問1 最終目標は何か?
問2 最終目標の障害とそれを防ぐ中間目標として何をなすべきなのか?
問3 中間目標間の時間的な順序はどうなっているのか?
まず手順1から手順3までで、対立する前提条件から望ましい要求と対立しない共通の目的を探索する。次いで手順4から手順6で、対立を解消するためのインジェクションを発見するのである。このように対立を生じさせている要求の目的を探すことで、変更可能な仮定や暗黙の条件を明らかにするための手がかりを見つけることができる。
◆因果関係
因果関係では、目的、要求、前提の論理的な関係を定義する。また同じ前提から対立していた前提の要求が、インジェクションにより論理的に導かれることも因果関係で表す。
【手順1】最終目標を決める
まず、最終的に何を変えたいのかという第1の問の答えを考えることにより最終目標を記述する。
【手順2】障害と中間目標を列挙する
次に、第2の問を考えることで最終目標を達成するための課題としての障害を抽出する。また障害に対する対策を考えて中間目標として記述する。さらにこの中間目標の障害は何かを考えて、その対策を具体化していく。
【手順3】障害と中間目標を確認する
手順2で考えた中間目標により障害を回避できることを確認する。
【手順4】前提条件ツリーの作成を開始する
中間目標を障害に対応付けるとともに、時間順序に従って下から上に配置する。つまり最終目標を頂点として、その前に必要な克服すべき課題と対策とを時間をさかのぼるように上から下に順に配置していくのである。
【手順5】中間目標を結ぶ
時間的に先行する中間目標と障害を後行する中間目標と障害の下に配置し、下の中間目標から上の中間目標に線を引く。すべての中間目標と最終目標とを線で結ぶ。このとき下位の中間目標によって回避される障害から、下位の中間目標からその上位の中間目標へ向けた線に対して線を引く。
【手順6】完成したツリーをレビュする
完成した前提条件ツリーに抜けがないことを確認する。

作成手順 | 留意点 | |
---|---|---|
1 |
最終目標を決める | 何を変えたいのかを記述する。 |
2 |
障害と中間目標を列挙する | 目標を達成するための課題とその対策を記述する。 |
3 |
障害と中間目標を確認する | 中間目標により障害を回避できることを確認する。 |
4 |
前提条件ツリーの作成を開始する | 中間目標を障害に対応付け時間順序に従って配置する。 |
5 |
中間目標を結ぶ | 時間的に先行する中間目標と障害を後行する中間目標と障害の下に配置し、下の中間目標から上の中間目標に線を引く。 すべての中間目標と最終目標とを線で結ぶ。このとき下位の中間目標によって回避される障害から,下位の中間目標からその上位の中間目標へ向けた線に対して線を引く。 |
6 |
完成したツリーをレビュする | 完成した前提条件ツリーに抜けがないことを確認する。 |
上勝町の前提条件ツリーの例
今回もこれまでと同じ徳島県上勝町(かみかつちょう)の町おこしの事例[3]について、前提条件ツリーを作成してみよう。上勝町はミカン以外の産業のない山間の過疎と高齢化に悩む町だったが、葉っぱをビジネスにすることで、活性化に成功したことで有名になった。
ここでは最終目標を「葉っぱを売ることができる」としてみよう。この最終目標に対する障害としては、次の3点が考えられる。
- 葉っぱがない
- 販売組織がない
- 販売経路がない
これに対してそれぞれ次の3つの対策を考えることができるだろう。
- 売れる葉っぱを持っていること
- 葉っぱを売る事業組織を持っていること
- 葉っぱを売る販売経路を持っていること
次にこれらの対策を中間目標として、その障害となるのは何かを考えて、その対策を具体化していく。
たとえば、売れる葉っぱを持っているためには、働く人がいないといけないという課題があり、さらにそのために高齢者が葉っぱを集めることになる。
ところが、高齢者が葉っぱを集めるためには、高齢者が葉っぱが売れることを信用しないという課題が出てくる。そこでこの課題を解決するために、高齢者に葉っぱが売れることを認知してもらう活動が必要になるというわけだ。
このような検討を続けることで、最終目標の実現に向けて考えられるすべての課題を明らかにしていくことができる。最終的に検討結果を整理すると、図1のような前提条件ツリーになるだろう。
- 60:要求とアーキテクチャ
- 61:要求と保守・運用
- 62:オープンソースソフトウェアと要求
- 63:要求工学のオープンな演習の試み
- 64:Web2.0と要求管理
- 65:ソフト製品開発の要求コミュニケーション
- 66:フィードバック型V字モデル
- 67:日本の要求定義の現状と要求工学への期待
- 68:活動理論と要求
- 69:ビジネスゴールと要求
- 緊急:今、なぜ第三者検証が必要か
- 71:BABOK2.0の知識構成
- 72:比較要求モデル論
- 73:第18回要求工学国際会議
- 74:クラウド時代の要求
- 75:運用要求定義
- 76:非機能要求とアーキテクチャ
- 77:バランス・スコアカードの本質
- 78:ゴール指向で考える競争戦略ストーリー
- 79:要求変化
- 80:物語指向要求記述
- 81:要求テンプレート
- 82:移行要求
- 83:要求抽出コミュニケーション
- 84:要求の構造化
- 85:アーキテクチャ設計のための要求定義
- 86:BABOKとREBOK
- 87:要求文の曖昧さの摘出法
- 88:システムとソフトウェアの保証ケースの動向
- 89:保証ケースのためのリスク分析手法
- 90:サービス保証ケース手法
- 91:保証ケースのレビュ手法
- 92:要求工学手法の再利用
- 93:SysML要求図をGSNと比較する
- 94:保証ケース作成上の落とし穴
- 95:ISO 26262に基づく安全性ケースの適用事例
- 96:大規模複雑なITシステムの要求
- 97:要求の創造
- 98:アーキテクチャと要求
- 99:保証ケース議論分解パターン
- 100:保証ケースの議論分解パターン[応用編]
- 101:要求発展型開発プロセスの事例
- 102:参照モデルに対する保証ケース
- 103:参SEMATの概要
- 104:参SEMATの活用
- 105:SEMATと保証ケース
- 106:Assure 2013の概要
- 107:要求の完全性
- 108:要求に基づくテストの十分性
- 109:システムの安全検証知識体系
- 110:機能要求の分類
- 111:IREB
- 112:IREB要求の抽出・確認・管理
- 113:IREB要求の文書化
- 114:安全要求の分析
- 115:Archimate 2.0のゴール指向要求
- 116:ゴール指向要求モデルの保証手法
- 117:要求テンプレートに基づく要求の作成手法
- 118:ビジネスゴールのテンプレート
- 119:持続可能性要求
- 120:操作性要求
- 121:安全性証跡の追跡性
- 122:要求仕様の保証性
- 123:システミグラムとドメインクラス図
- 124:機能的操作特性
- 125:セキュリティ要求管理
- 126:ソフトウェアプロダクトライン要求
- 127:システミグラムと安全分析
- 128:ITモダナイゼーションとITイノベーションにおける要求合意
- 129:ビジネスモデルに基づく要求
- 130:ビジネスゴール構造化記法
- 131:保証ケース導入上の課題
- 132:要求のまとめ方
- 133:要求整理学
- 134:要求分析手法の適切性
- 135:CROS法の適用例
- 136:保証ケース作成支援ツールの概要