NTTデータ
技術開発本部
副本部長
山本修一郎
ゴール分析の事例(続き)
RPPG-4(電子タグの読み取りに関する消費者の最終的な選択権の留保)
【記述】
事業者は、消費者に物品が手交された後も当該物品に電子タグを装着しておく場合において、消費者が、当該電子タグの性質を理解した上で、当該電子タグの読み取りをできないようにすることを望むときは、消費者の選択により当該電子タグの読み取りができないようにすることを可能にするため、その方法についてあらかじめ説明し、もしくは掲示し、又は当該物品もしくはその包装の上に当該方法について表示を行う必要がある。
【分析のポイント】
この記述では、「することを望むときは」という記述に着目する。望むということは、願望であり目的を示すと考えることができる。また、このすぐ後に「消費者の選択により当該電子タグの読み取りができないようにすることを可能にするため」という記述がある。「するため」の前半には、目的が記述されていて、後半にはその手段が記述されているはずである。したがって「消費者の選択により、物品に装着された電子タグの読み取りをできないようにする」ことを親ゴールとする。そうすると、「その方法について」以降の記述を読むことにより、サブゴールを抽出できるだろう。
このとき、方法について説明するだけではなく、実際に読み取りをできないようにする方法も必要になることに気づくと、親ゴールのサブゴールとして「電子タグの読み取りできないようにする方法を消費者が選択する」を追加することができる。
【ゴール図】
RPPG-4に対するゴール図の例を図5に示す。親ゴールは「消費者の選択により、物品に装着された電子タグの読み取りをできないようにする」である。サブゴールには「電子タグの読み取りをできないようにする方法を消費者が認識できる」と「電子タグの読み取りできないようにする方法を消費者が選択する」がある。
図5 第4(電子タグの読み取りに関する消費者の最終的な選択権の留保)
「電子タグの読み取りをできないようにする方法を消費者が認識できる」のサブゴールは「消費者にあらかじめ説明する」「消費者にあらかじめ掲示する」「物品に対して表示する」となる。「物品に対して表示する」のサブゴールは「物品の包装上に表示する」と「物品に表示する」である。
またRPPG-4には「電子タグの読み取りができないようにする方法の例」として、次の3項目が記述されている。
- アルミ箔で覆って遮断できる場合はアルミ箔で覆うなど電子タグと読取機との通信を遮断する。
- 電子タグ内の固有番号を含む全部もしくは消費者が選択する一部の情報を電磁的に消去し、又は当該情報を読み取ることを不可能にする。
- 電子タグ自体を取り外す。
そこで、RPPG-4のサブゴール「電子タグの読み取りできないようにする方法を消費者が選択する」に対するゴール図を記述すると、図6のようになるだろう。このサブゴールへの詳細化は、場合分けによるゴール展開の例である。
図6 電子タグの読み取りができないようにする方法
ゴール分析の留意点
ゴールを記述する際の詳細化の粒度やゴールの抽象度については、今回のような良く吟味された文章記述がすでにあるときは、あまり問題にならないだろう。しかし一方で、文章記述の曖昧さがゴール図を記述することで、顕在化することにも気づいていただけたのではないだろうか?たとえば、今回紹介したガイドラインでは、「しつつ」「・・し」「及び」などの接続詞の扱いに解釈の差が出ると思われる。
また、自然言語で記述された文章に対してもゴール図が簡単に適用できることもお分かりいただけたのではないだろうか?文章の意図を把握するためにも、ゴール図が有効であると思われる。逆に、ゴール図を書いたり、頭の中で想定しておくことで正確な文章を記述できるようになると考えることもできる。
今回は「電子タグプライバシー保護ガイドライン」を対象として、ゴール図の作り方を具体的に紹介した。4つの規則までしか紹介できなかったので、第5から第10までについては次回までの読者への宿題としよう。ぜひ自分でゴール図を書いてみていただきたい。
参考文献
- [1] 山本修一郎, 要求工学,http://www.bcm.co.jp/site/youkyu/index.html
- [2]お客様の課題解決を支援するビジネスモデリング方法論「MOYA」,http://e-public.nttdata.co.jp/f/repo/296_j0506/j0506.asp
- [3] 総務省・経済産業省:http://www.soumu.go.jp/s-news/2004/pdf/040608_4_b.pdf
- 60:要求とアーキテクチャ
- 61:要求と保守・運用
- 62:オープンソースソフトウェアと要求
- 63:要求工学のオープンな演習の試み
- 64:Web2.0と要求管理
- 65:ソフト製品開発の要求コミュニケーション
- 66:フィードバック型V字モデル
- 67:日本の要求定義の現状と要求工学への期待
- 68:活動理論と要求
- 69:ビジネスゴールと要求
- 緊急:今、なぜ第三者検証が必要か
- 71:BABOK2.0の知識構成
- 72:比較要求モデル論
- 73:第18回要求工学国際会議
- 74:クラウド時代の要求
- 75:運用要求定義
- 76:非機能要求とアーキテクチャ
- 77:バランス・スコアカードの本質
- 78:ゴール指向で考える競争戦略ストーリー
- 79:要求変化
- 80:物語指向要求記述
- 81:要求テンプレート
- 82:移行要求
- 83:要求抽出コミュニケーション
- 84:要求の構造化
- 85:アーキテクチャ設計のための要求定義
- 86:BABOKとREBOK
- 87:要求文の曖昧さの摘出法
- 88:システムとソフトウェアの保証ケースの動向
- 89:保証ケースのためのリスク分析手法
- 90:サービス保証ケース手法
- 91:保証ケースのレビュ手法
- 92:要求工学手法の再利用
- 93:SysML要求図をGSNと比較する
- 94:保証ケース作成上の落とし穴
- 95:ISO 26262に基づく安全性ケースの適用事例
- 96:大規模複雑なITシステムの要求
- 97:要求の創造
- 98:アーキテクチャと要求
- 99:保証ケース議論分解パターン
- 100:保証ケースの議論分解パターン[応用編]
- 101:要求発展型開発プロセスの事例
- 102:参照モデルに対する保証ケース
- 103:参SEMATの概要
- 104:参SEMATの活用
- 105:SEMATと保証ケース
- 106:Assure 2013の概要
- 107:要求の完全性
- 108:要求に基づくテストの十分性
- 109:システムの安全検証知識体系
- 110:機能要求の分類
- 111:IREB
- 112:IREB要求の抽出・確認・管理
- 113:IREB要求の文書化
- 114:安全要求の分析
- 115:Archimate 2.0のゴール指向要求
- 116:ゴール指向要求モデルの保証手法
- 117:要求テンプレートに基づく要求の作成手法
- 118:ビジネスゴールのテンプレート
- 119:持続可能性要求
- 120:操作性要求
- 121:安全性証跡の追跡性
- 122:要求仕様の保証性
- 123:システミグラムとドメインクラス図
- 124:機能的操作特性
- 125:セキュリティ要求管理
- 126:ソフトウェアプロダクトライン要求
- 127:システミグラムと安全分析
- 128:ITモダナイゼーションとITイノベーションにおける要求合意
- 129:ビジネスモデルに基づく要求
- 130:ビジネスゴール構造化記法
- 131:保証ケース導入上の課題
- 132:要求のまとめ方
- 133:要求整理学
- 134:要求分析手法の適切性
- 135:CROS法の適用例
- 136:保証ケース作成支援ツールの概要